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懐風藻の詩と文  新刊

懐風藻の詩と文

◎上代諸資料の漢語研究に大きな可能性を広げる意欲作!

著者 川上 萌実
ジャンル 日本古典(文学)
日本古典(文学) > 上代万葉
日本古典(文学) > 上代万葉 > 漢詩文集
日本古典(文学) > 中古文学
日本古典(文学) > 中古文学 > 漢詩文集
出版年月日 2023/03/15
ISBN 9784762936838
判型・ページ数 A5・210ページ
定価 7,700円(本体7,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

序(山﨑福之)

第一部 詩語をめぐって

 第一章 『懐風藻』の用例未見語から見る日本漢詩の発展
   第一節 はじめに            
   第二節 実例と分析の方法について
   第三節 おわりに
   資料 『懐風藻』の用例未見語(「対象」による分類)

 第二章 詩作の実態――『遊仙窟』と『千字文』の利用から――
   第一節 はじめに           
   第二節 『懐風藻』研究における『遊仙窟』の位置づけ
   第三節 『懐風藻』における故事の縮約と『千字文』
   第四節 「阮嘯」と「嵆琴」について  
   第五節 広義での『千字文』詩作利用の想定
   第六節 おわりに           
   資料 『千字文』『懐風藻』間の同一語句対照表

第二部 人物伝をめぐって

 第一章 『懐風藻』人物伝と誄
   第一節 はじめに            
   第二節 『懐風藻』と誄、誄と僧侶
   第三節 皇族の人物伝――論評と不遇―― 
   第四節 石上乙麻呂の人物伝と集序
   第五節 おわりに

 第二章 人物伝に見られる唐代総集の影響と独自性
   第一節 はじめに           
   第二節 人物伝の存在について――唐人選唐詩との比較――
   第三節 人物伝の内容について――正史と墓誌銘の記述との比較――
   第四節 おわりに
   資料 主な唐人選唐詩一覧

第三部 序と書名をめぐって

 第一章 序の記載内容の検討――後半部分に関して――
   第一節 はじめに        
   第二節 問題の所在
   第三節 収録詩の摘句・摘語
   第四節 編纂動機
   第五節 おわりに

 第二章 『懐風藻』書名考
   第一節 はじめに                     
   第二節 問題の所在
   第三節 「風」が示すもの――序の「風声」「遺風」との対応――
   第四節 書名末尾の「藻」の解釈              
   第五節 おわりに

附論 勅撰三集序の文体について――嵯峨朝の官撰国書編纂のあり方――
   第一節 はじめに            
   第二節 勅撰三集序と上表文の形式
   第三節 官撰国書における上表文形式の序 
   第四節 序に要求される内容と文体選択の相関性
   第五節 おわりに
  
主要引用文献一覧
結 語
後 記
初出一覧
索 引

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内容説明

【結語より】(抜粋)
 本書では、『懐風藻』について、三部にわたり包括的な考察を行った。
 第一部「詩語をめぐって」の第一章「『懐風藻』の用例未見語から見る日本漢詩の発展」では、「用 例未見語」(先行する用例や、同時代の用例が漢籍にないもの)と定義した出典不明語を分類し、詩語の問題を整理・総括した。……第二章「詩作の実態――『遊仙窟』と『千字文』の利用から――」では、特に『遊仙窟』や『千字文』を例にとり、『懐風藻』の詩作の実態解明において幅広い資料の検討が必要であることを明らかにした。
 第二部「人物伝をめぐって」では、『懐風藻』の内容を検討し、『懐風藻』を総集として捉えたとき、その構成において人物伝が存在することの意味(編纂上の意図)を考察した。現在、『懐風藻』研究の 最も大きな問題点は、収録された詩については注釈・考察が行われているのに対して、散文部分に関する研究が不十分な点である。詩については、調査対象に多少の偏りがあるとはいえ、ある程度の出典調査が蓄積されているのに対して、散文部分についてはそもそも語彙・表現の出典も十分に精査されていない。このような現状を踏まえ、まずは人物伝について基礎的な注釈・研究を行う必要を感じ、調査を行なった。……第二章「人物伝に見られる唐代総集の影響と独自性」では、『懐風藻』に見られる詩人別の配列が多くの唐人選唐詩と共通することを踏まえ、一部の唐人選唐詩に見られる詩人評(『河岳英霊集』の篇額など)と人物伝の共通点を示した。
 第三部「序と書名をめぐって」では、第二部までの考察を踏まえ、『文選』との比較とは異なる観点から、序と書名について考察した。第一章では、『懐風藻』の序における収録詩の引用方法を『文選』と比較し、共通点と相違点について述べた上で、編纂動機について、唐人選唐詩と共通することを指摘した。序については、古くから文選との類似が指摘されてきたが、近年では唐代作品との類似を指摘する論考も散見する。本稿ではそれらを踏まえ、新たな観点から唐人選唐詩との関連を探り、『懐風藻』がいかなる作品の影響、時代背景のもとに作られたものなのか考察した。第二章では、書名に関する再検討を行なった。……書名については、唐人選唐詩との比較という新たな観点から序を含めた調査を行い、従来の『懐風藻』の書名考証を再検討する必要性を提示した。
 以上、『懐風藻』全体の検証を通して、その編纂意図の解明を目指したのが本稿である。
 ……なお巻末には、附論として「勅撰三集序の文体について――嵯峨朝の官撰国書編纂のあり方――」 を収めた。これは、勅撰三集の序の文体が上表文に類似することを指摘し、その記述内容が、中国に おける総集の序とは異なることについて示した上で、勅撰三集、そして『懐風藻』の総集としてのあ り方の違いに言及したものである。『懐風藻』における人物伝の存在、序に示される編纂意図、書名の「風」の意味などを綜合すると、『懐風藻』は詩人に主眼を置いた総集であることが指摘できる。撰者や編纂過程等、未だ明らかでない問題も数多く残されているが、この書について探究することを起点として、日本漢文学の形成過程を探り、和漢比較という観点から日本文学へアプローチすることに繋げたい。

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